日本酒に使われる酵母とは?──味わいを決める微生物たちの秘密

酵母ってなに?──酒造りの影の立役者

日本酒の原料といえば「米」と「水」。
けれど、そこに命を吹き込む存在があることを忘れてはいけません。
それが、酵母

酵母は、酒造りのプロセスにおいて、

糖を分解してアルコールを生み出す
香り成分を生成する
味わいに複雑さをもたらす

という、まさに日本酒の心臓部を担う存在です。

酵母が日本酒にもたらすもの

酵母の働きは、
単にアルコールを生み出すだけではありません。
実は、日本酒の味・香り・口当たりに決定的な影響を与えます。

アルコール発酵

酵母は、糖を食べてアルコールと炭酸ガスを作り出します。
この発酵がなければ、日本酒はただの甘い米汁のまま。
酵母がアルコールを生み出すことで、
米の甘さが引き締まり、
日本酒独特の清涼感とキレが生まれるのです。

香り成分の生成

酵母が生み出す副産物の中には、
私たちが「日本酒の香り」と感じる成分も含まれます。

例えば:

エステル:フルーティーな香り(リンゴ、バナナ)
アルコール類:華やかさや厚み
酸類:爽やかさ、シャープな印象

つまり、
酵母の種類によって日本酒の香りの個性が決まる
と言っても過言ではありません。

味わいと口当たりへの影響

酵母はまた、発酵中に微量の酸やアミノ酸を生み出し、
これが日本酒の味わいに厚みと複雑さを与えます。

酸度が高いと、さっぱりした味わいに
アミノ酸が多いと、旨味が強調される

この微妙なバランスを生み出すのも、
酵母の“腕前”次第なのです。

日本酒酵母の種類と特徴

日本酒に使われる酵母は、
その出自や性質によってさまざまな種類に分かれています。

協会酵母

最もスタンダードな日本酒酵母。
明治時代に日本醸造協会が選抜した優秀な酵母を、
ナンバリングして頒布しています。

代表的なもの:
協会6号酵母(新政酒造):酸が強く、力強い味わい
協会7号酵母(真澄):バランス型、クセが少なく万人受け
協会9号酵母(熊本):華やかでフルーティー、吟醸酒向き

花酵母

自然界の花から分離された酵母。
自然由来の特徴を持ち、
より個性的な香りや味わいを持つ日本酒を生み出します。

桜の花酵母:ふんわりした香り、やさしい甘味
椿の花酵母:爽やかな酸味、スッキリした飲み口

花酵母を使った日本酒は、
よりナチュラルで個性豊かな仕上がりになるのが特徴です。

自社酵母・蔵付き酵母

最近では、各蔵元が独自に培養した自社酵母や、
蔵に自然に住み着いた蔵付き酵母を使うことも増えています。

これにより、

蔵ごとの個性が際立つ
土地の気候や文化が酒に反映される

といった、テロワール的な日本酒が生まれるのです。

酵母の違いが生み出す味わいの差

酵母によって生まれる日本酒の個性は、驚くほど幅広い。

酵母タイプ特徴向いているスタイル
協会9号酵母華やかな吟醸香、フルーティー吟醸酒、大吟醸酒
協会7号酵母バランス型、食中酒向き純米酒
花酵母(桜)軽やかで香り豊かライトボディ
蔵付き酵母蔵の個性を反映ナチュラル系、自然派

同じ米・同じ水を使っても、
酵母が変われば香りも味もがらりと変わる──
これこそが、日本酒の奥深さなのです。

酵母にこだわった日本酒2選

新政「No.6」

酵母:協会6号(蔵付きオリジナル)
特徴:クリアな酸味とシャープな味わい
スタイル:モダンでミネラリーな純米酒

秋田の新政酒造が誇る、
蔵付き6号酵母を使ったフラッグシップ。
酵母が生み出す独特の酸味と清涼感は唯一無二。

真澄「山花」

酵母:協会7号
特徴:すっきりとした飲み口と上品な旨味
スタイル:食事に寄り添うスタンダード純米吟醸

協会7号酵母発祥の蔵・真澄が手がける食中酒。
クセがなく、和洋どちらの料理にもよく合います。

まとめ:酵母を知れば日本酒がもっと面白くなる

日本酒の個性は、
単に米や水だけで決まるものではありません。

酵母という見えない小さな存在が、
香りを生み
味に深みを与え
酒の表情を作り出している

次に日本酒を選ぶとき、
ラベルに小さく書かれた「協会9号酵母」「花酵母」の文字にも注目してみてください。

酵母を知れば、
日本酒の世界はもっと奥深く、もっと面白くなるはずです。