佐賀県鹿島市──九州の西側に位置するこのまちは、かつて宿場町として栄えた面影を残しながら、日本酒とともに独自の文化を育んできました。
醸造の香りが漂う街並み、白壁の町屋、緩やかに流れる水路。観光地らしい派手さはないけれど、そこには“地に足のついた美しさ”があります。
「この酒、どこで造られたんだろう?」
ふとラベルを見て、“鹿島”という文字に引っかかったことのある人へ。あるいは旅先で口にした1杯が忘れられないという人へ。この記事は、そんなあなたのために綴ります。
鹿島の場所とアクセス
鹿島市は、佐賀県の南西部に位置し、有明海に面した自然豊かなまちです。福岡市内から車や電車で約1時間半。アクセスは比較的良好で、博多駅からJR特急「かささぎ」に乗れば肥前鹿島駅まで一本でたどり着けます。
観光客がよく口にするのは「思っていたより近いし、静かで落ち着く」ということ。都会の喧騒を離れて、穏やかな時間の流れる町で過ごしたいという人にとって、鹿島はまさに“穴場”の旅先です。
祐徳稲荷だけじゃない、鹿島の奥行きある魅力
鹿島と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、全国的にも有名な「祐徳稲荷神社」かもしれません。確かにその豪華絢爛な社殿は一見の価値ありですが、実はその周囲にこそ、鹿島の本当の魅力が詰まっています。
たとえば、白壁の町並みが残る「肥前浜宿」。発酵文化の香りが漂う八本木宿の酒蔵通り。古い家屋をリノベーションしたカフェやギャラリーも点在しており、「歩く旅」が楽しいまちです。
また、地元の人との距離感も心地よく、観光地にありがちな“商売っ気”を感じさせません。「ゆっくりしていってね」「よかったら、これ飲んでみて」そんな自然な一言に、旅の記憶が深く刻まれていきます。
歴史の中で息づく酒造り
鹿島の酒文化の根底には、江戸時代から続く「浜宿」の歴史があります。このエリアは、物流の拠点として栄え、町人文化が育まれた場所。豊かな水、湿潤な気候、そして技術者たちの往来により、発酵文化が根付いていきました。
特に浜通りには、今でも現役の酒蔵が立ち並び、石畳の通りを歩けば、ふわっと麹やもろみの香りが鼻をくすぐります。こうした環境が、“暮らしに酒がある風景”を今なお残しているのです。
鹿島の地酒は“合わせる酒”
鹿島の酒を飲んで驚くのは、その「合わせやすさ」。
決して主張が強すぎず、料理とともに引き立て合うバランスを持っています。
地元では、魚の煮つけや焼き物、味噌や醤油を使った郷土料理と一緒に飲まれることが多く、酒単体よりも“食の時間”に寄り添う存在として愛されてきました。
歩くだけでワクワクする白壁の町並み

鹿島の旧市街地、通称「浜宿エリア」には、江戸時代から続く白壁の建物やなまこ壁が立ち並び、まるで時代劇の世界に入り込んだような風景が広がります。観光スポットとして大きく取り上げられることは少ないけれど、このエリアは“鹿島らしさ”がギュッと詰まった、地元の人も大切にしている場所です。
特におすすめは、朝からのんびり散策すること。石畳の道を歩けば、どこからともなく日本酒のもろみ香や醤油の香ばしさが漂ってきます。ひとつ角を曲がるたびに、蔵や古民家カフェ、発酵食品の専門店が現れるから、飽きる暇がありません。
知る人ぞ知る「酒蔵通り」で地酒に出会う
浜宿の目玉といえば、やはり「酒蔵通り」。ここには複数の酒蔵が軒を連ねていて、徒歩5分圏内で日本酒の飲み比べができるという贅沢な場所。酒好きにとっては、まさに天国です。
通り沿いには、見学ができる蔵や、直売所、そして試飲コーナーまであり、ほろ酔い気分で鹿島の風土を味わうことができます。ラベルのデザインや酒器の違いに目を凝らすのも楽しいポイント。
たとえば、光武酒造場の「SODA」や富久千代酒造の限定酒など、ここでしか手に入らない銘柄も多く、思わず荷物が増えてしまう人も少なくありません。
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おつまみの域を超える、鹿島の発酵食文化
鹿島は日本酒だけじゃありません。発酵の町として知られるだけあって、酒のアテも超一級品。
観光中でも、これらは小さな商店や食堂で気軽に味わえるのが嬉しいところ。食を通じて、酒と鹿島の距離がさらに縮まります。
昼飲みOK!浜通りで絶対立ち寄りたい「HAMA BAR」
浜通りの真ん中、白壁の町並みの中に溶け込むように佇む「HAMA BAR(ハマバー)」は、鹿島に来たら絶対に外せない昼飲みスポット。酒蔵直送の日本酒を、その場で角打ちスタイルで楽しめる“地元密着型バー”として観光客・地元民問わず愛されています。
HAMA BARの魅力は、ただ酒が飲めるだけではありません。町の観光案内所的な役割も担っており、店主や常連さんとの会話を通じて「今日はどの酒蔵に行くべきか」「地元で評判の昼ご飯は?」といったリアルな情報が得られます。
観光の導入としての立ち寄りにも、旅の締めの一杯としても使えるHAMA BAR。ここで好みの味を見つけてから蔵巡りを始める、というスタイルが非常におすすめです。
酒に詳しくない人でも、店主に好みを伝えれば「ならこの1本を」とぴったりな地酒を提案してくれます。まさに“鹿島の地酒ナビゲーター”のような存在。
電車でも車でもアクセスしやすい立地

鹿島は、佐賀市内から車で約1時間。JR長崎本線の「肥前鹿島駅」もあるので、列車でのんびり旅も可能です。車派には無料駐車場も複数あり、ドライブ観光にもぴったり。
また、駅から浜宿までは徒歩圏内。飲んでも安心の“歩き飲み”が成立する町なのです。
宿泊して朝の静けさも味わいたい

夜の酒蔵通りも風情がありますが、実はおすすめは「朝の鹿島」。観光客がいない時間帯に、しっとりとした空気の中で町を歩くと、まるでタイムスリップしたような感覚になります。
地元の旅館や一棟貸しの古民家宿も増えていて、静かに過ごしたい大人の旅行者にもぴったり。
鹿島は祐徳稲荷神社だけじゃなく、歩くほどに面白さが見つかる町。白壁の町並み、歴史ある酒蔵、発酵食文化、そして地元の人たちの温かさ。
観光地然としたスポットではなく、「暮らしに根ざした酒の文化」に触れられるのが鹿島の魅力です。
日本酒が好きな人はもちろん、「ちょっと変わった九州旅をしてみたい」「ゆるくて美味しい町を歩きたい」そんな人にこそ、この鹿島のまち歩きをおすすめしたいと思います。