佐賀県鹿島市──九州の酒どころとして全国に名を馳せるこの地は、ただ「おいしい日本酒がある町」ではありません。ここには、四季折々の自然、蔵元の情熱、そして地域文化が複雑に絡み合った「地酒文化」が根づいています。
観光で訪れる人にとって、日本酒は単なる“お土産”ではなく、“その土地のストーリーを持ち帰る手段”とも言えるでしょう。この記事では、鹿島に住む筆者が本気でおすすめする、今こそ飲んでほしい日本酒を5本に厳選して紹介します。
「どの蔵の何を買えばいいの?」「季節によって味が違うって本当?」そんな疑問に答えつつ、購入できる場所や保存のコツまで、鹿島観光にも役立つ内容を詰めこみました。
地酒の宝庫・鹿島市の特異な風土
鹿島市は、有明海に面した湿潤な気候と、背後にそびえる多良岳系の清らかな伏流水に恵まれています。この環境が、酒米栽培にも仕込みにも絶好の条件をもたらし、古くから多くの酒蔵が集まりました。
さらに、鹿島の酒は“味の輪郭”がはっきりしており、甘口でも重たくなく、辛口でも刺々しさがない──つまり、“万人に好かれやすい”絶妙なバランスを持つのです。
観光とセットで楽しめる「地酒文化」
鹿島では、観光名所と酒蔵が徒歩圏内に点在しており、町歩きの途中で酒蔵見学や試飲が楽しめます。イベント時には酒蔵が限定酒を販売するなど、観光体験と一体化した日本酒の楽しみ方ができるのも魅力です。
次のセクションでは、鹿島の中でも特に「買って帰ってほしい」「飲んだ瞬間に旅の情景がよみがえる」と評判の6本を、リアルな体験や背景と共に紹介していきます。
能古見 BLOOM(馬場酒造場)──春限定の“咲くような香り”に心がほどける

「能古見 BLOOM」は、鹿島の名門蔵・馬場酒造場が春限定で出す特別な一本。その名のとおり、“花が咲くような”香り立ちと、口に含んだ瞬間に広がる柔らかな甘みが特徴です。
BLOOMの最大の魅力は、生酒らしい華やかさを持ちながら、どこか軽やかで、するすると喉を通っていく飲み心地の良さ。飲み疲れしないバランス感は、初心者にもおすすめできます。
- 温度帯: 冷酒または常温
- ペアリング: ホタルイカの酢味噌和え、筍の土佐煮、菜の花のおひたしなど、春の野菜料理と相性抜群
地元民は、毎年この酒が出るタイミングで“春の訪れ”を感じると言います。数量限定のため、出会えたら迷わず手に取ってほしい一本です。
鍋島 ブラック(富久千代酒造)──“キレ”と“コク”の両立。辛口派の心をつかむ名品

佐賀を代表する銘柄「鍋島」シリーズの中でも、特に“通好み”として人気なのがこの「鍋島 ブラック」。一口目に感じるのは、穏やかながらしっかりとした辛口のアタック。舌の上をすっと通り抜けた後、ふわりと甘みが広がり、鼻からフルーティーな香りがすっと抜けていきます。
香り系の吟醸酒とは一線を画す、洗練された「辛口なのに味わいがある」バランス感覚。これが鍋島ブラックの真骨頂です。
筆者がこの酒に出会ったのは、地元の居酒屋で「今日は辛口にしてみよう」と店員に勧められた夜のこと。一口飲んで「えっ、これ辛口?」と戸惑ったほど、キレの後にふくよかな旨みが広がりました。
“辛口”という言葉に先入観を持っていた自分にとって、この鍋島ブラックとの出会いは「日本酒ってこんなにも奥深いんだ」と気づかせてくれた原点のような存在です。
- 温度帯: 冷酒〜常温(やや冷やがおすすめ)
- 合わせたい料理:
- かつおのたたき
- 魚料理(煮つけ)
食中酒としての完成度が非常に高く、特に塩気のある肴と組み合わせると酒の旨味が引き立ちます。
Gimlet by Tanino Gimlet(光武酒造 × ウマ娘コラボ)──リキュールの概念を変えた“映える”1本

佐賀・鹿島を代表する光武酒造が、人気コンテンツ「ウマ娘」とタッグを組んで生まれた、完全数量限定の“リキュール”です。
フレーバーはまさにジンベースの「ギムレット」をイメージしており、飲み口は柑橘のような爽やかさとスッと引いていく酸味が印象的。見た目も美しく、SNSでの「映え」も狙えるビジュアル。
現在は完売しており、手に入れるのは至難の業。それだけに、鹿島でこんな先進的な酒が生まれている事実に驚かされます。
「キャラコラボって、どうせ中身は普通の酒でしょ」と正直思っていた筆者。しかし、実際に飲んでみると──想像を裏切る完成度の高さ。
炭酸で割って飲んだときの爽快感は、ジントニックを思わせる洗練された香り。リキュールにありがちな甘さは控えめで、どこか大人びた雰囲気すら感じます。「日本酒はちょっと…」という層にもアプローチできる、まさに次世代型の酒でした。
飲み方:
・ソーダ割り(レモンを添えると最高)
・ロック(氷でゆるやかに変化)
特別純米酒 幸姫──“地元民の食卓にある日常の酒”という幸せ

「幸姫(さちひめ)」は、鹿島市にある幸姫酒造が手がける、まさに“地元の日常”に寄り添うような日本酒です。
その中でも「特別純米酒」は、観光客向けではなく、むしろ地元の人が家庭で飲むために選ぶ銘柄。奇をてらわない、だからこそ飽きが来ない。これこそが“日々の食卓にあるべき日本酒”の姿だと感じさせられます。
淡麗ながら米の旨みはしっかり。酸味は控えめで、食中酒としてのバランスが非常に優れています。焼き魚や煮物など、どんなおかずにも寄り添い、料理の邪魔をしない。日本酒の“名脇役”としての魅力が、ここには詰まっています。
鹿島の友人宅に遊びに行った際に、何の気なしに出されたのが「幸姫」の清酒でした。
初めは「ん?普通の酒かな?」と思ったのですが、焼きナスや味噌汁と合わせていくうちに、そのさりげない旨さにどんどん惹かれていく…。気づけば、おかわりをお願いしていたほど。
派手な香りや濃厚な甘味ではない。でも、「飲みやすさ」と「穏やかな余韻」の絶妙なバランスがクセになります。「またあれ飲みたいな」と思わせる、不思議な中毒性を持つ1本です。
飲み方 | 相性抜群の料理 |
---|---|
常温 | 焼きナス、煮物、鶏の照り焼き |
ぬる燗 | 湯豆腐、おでん、鯖味噌煮 |
冷や(冷蔵) | 冷奴、枝豆、白身魚の塩焼き |
光武 Soda style──炭酸割りで“新しい日本酒体験”を

「光武 Soda style(ソーダスタイル)」は、佐賀県鹿島市の光武酒造場が開発した、**“割って楽しむ専用の日本酒”**です。
その名の通り、炭酸割り(ソーダ割り)を前提に設計されており、「そのまま飲む」だけが正解ではないという新しい価値観を提供してくれる1本。
通常の日本酒と異なり、アルコール度数は11%とやや低めで、香りはすっきり、味は爽快。甘さ控えめのドライな味わいで、まさに“日本酒のハイボール”といった飲み心地。
日本酒に苦手意識を持つ人や、ふだん焼酎の炭酸割りを好む人にもすんなりハマるはずです。
おすすめ記事: 日本酒を“割って”楽しむ新時代!光武酒造「Soda style」の魅力とアレンジレシピ
正直に言えば、最初は「日本酒を割るなんてもったいない」と思っていました。でも、焼き鳥屋の常連さんにすすめられて、レモンを絞った炭酸で割った「Soda style」を飲んだとき──衝撃でした。
キレがあって爽やか、後味にほんのり米の旨味が残るバランス。まるで白ワインベースの和製スプリッツァー。この一本がきっかけで、日本酒を“もっと自由に楽しんでいいんだ”と思えるようになりました。
割り方 | 味の特徴 | シーン例 |
---|---|---|
炭酸水+レモン | 爽やか・すっきり・酸味のアクセント | 焼き鳥、唐揚げ、餃子などにぴったり |
トニックウォーター | ほろ苦さと柑橘感、オシャレな大人の甘み | 前菜やカナッペとあわせて |
ジンジャーエール | スパイシーで親しみやすい、意外なマッチング | 焼肉・鉄板焼き・ホットプレート料理などに |
せっかく飲んでみたい地酒が見つかっても、「どこで買えるの?」と気になりますよね。
鹿島の日本酒は、以下のような方法で手に入ります:
・現地の酒蔵直売所や土産物店:観光ついでに立ち寄るならココ。限定酒が手に入るチャンスも!
・オンラインショップ(各酒蔵公式/ECモール):楽天やYahoo!ショッピングなどでも取り扱いあり。蔵元直送も多いです。
・ふるさと納税の返礼品:鹿島市の酒蔵は多くがふるさと納税対応。お得に楽しみたい方に◎
中でも、旅行の予定がなくても楽しめる「ふるさと納税で地酒デビュー」はおすすめ。
詳しくは【鹿島の地酒をふるさと納税でもらう方法】の記事も今後公開予定です。
鹿島の地酒には、ただの「おいしいお酒」では収まりきらない奥深さがあります。
それは、四季折々の自然、造り手のこだわり、そして地元の人々が育んできた文化の結晶ともいえる存在です。
今回ご紹介した5本──
能古見 BLOOM、鍋島ブラック、幸姫 特別純米酒、光武 Soda style──
どれもが「鹿島らしさ」を違った角度から映し出す一本ばかり。季節限定やコラボ酒も含め、今しか出会えない味わいもあります。
旅行で鹿島を訪れた際は、ぜひ地元の酒店や飲食店で「この土地の味」を手に取ってみてください。
瓶の中に詰まっているのは、米と水と発酵の魔法だけでなく、「ここにしかない空気」と「人の手の温もり」です。
そして、鹿島の酒に触れたあなたがまたどこかで誰かにそれを伝えることで、この文化は静かに、でも確かに広がっていくのです。
あなたの手元にある一杯が、次の誰かの“日本酒との出会い”になるかもしれません。