日本酒は “甘い派” と “辛い派” がきっぱり分かれるお酒ですが、
初めての人は「何を基準に甘口・辛口を判断すればいいの?」と戸惑いがちです。
実際、鹿島の酒屋で観光客が一番悩むのもこのポイントなのだとか。
まず押さえておきたいのは、ラベルに記載される 「日本酒度」と「酸度」 の2つ。
この2つの数値を組み合わせることで、ほぼ確実に味の傾向を予測できます。
- 水と比べたときの比重。
- プラス値が大きいほど糖分が少なく辛口、マイナス値が大きいほど糖分が多く甘口 と覚えよう。
まず日本酒度とは、糖分の量を比重で表した指標で、プラスかマイナスか、そしてその絶対値の大きさによっておおまかな甘辛のラインがわかります。
水と同じ比重をゼロとし、それより軽ければプラス、重ければマイナス。
プラスに振れるほど糖分が少なくなり、味はシャープな方向へ。逆にマイナスに振れるほど糖分が多く、口あたりはまろやかになります。
目安として、プラス三〜五あたりが「すっきり辛口」、マイナス二〜三あたりは「はっきり甘口」と呼ばれるゾーンです。
もう一つの酸度は、読んで字のとおり「酸味の強さ」を示す数値です。
酸度が高いと後味がきゅっと締まり、いわゆるキレが増します。
酸度が一・〇前後であれば穏やかな印象、一・四を超えてくると旨味のあとにシャープさが現れ、一・八を超える頃には輪郭のはっきりした酸味が酒に骨格を与えます。
この二つの指標は、実際には掛け算のように働きます。たとえば日本酒度がプラス五でも酸度が低いと「ドライだが丸みがある」と感じることがあり、逆に日本酒度がマイナス二でも酸度が高いと「甘いのに後口がキリッ」と感じる場合があるのです。
多くの蔵は裏ラベルやホームページに日本酒度と酸度を掲載しています。
まずは日本酒度がプラスかマイナスか、そしてどのくらい離れているかをざっと確認してみてください。
次に酸度の数値を併せて見ると、甘さとキレ味のバランスが浮かび上がってきます。
もしラベルに数値がなくても、「超辛口」「芳醇旨口」といったキーワードがヒントになります。
たとえば「芳醇旨口」はマイナス寄りで酸度も中庸なことが多く、「超辛口」はプラス六以上、酸度一・五以上というケースが少なくありません。
鹿島の幸姫酒造の店頭ポップには、日本酒度と酸度が大きな文字で書かれていて、初心者でも迷わず手に取れる仕組みになっていました。
数字の背景にあるイメージさえつかんでしまえば、見知らぬ蔵の銘柄でも「おそらくこの味だろう」と当たりをつけられるようになります。
もし甘い日本酒が苦手なら、まず日本酒度がプラス二からプラス四、酸度は一・四以上を目安に探してみてください。
この範囲の酒は糖分が少なくキレがある一方、プラス五以上の超辛口よりは旨味が残っていて、食中酒として汎用性が高いからです。
また、香りが強い吟醸タイプより、米の旨味をストレートに感じる純米系の方が「甘さ控えめ、でも味わいはしっかり」という狙いに合致しやすい傾向があります。
逆に甘口派の人は、日本酒度がマイナス二以下、酸度一・二前後を基準にすると失敗が少なくなります。
このレンジの酒は冷やしたときに甘味が際立ちやすく、フルーティーな吟醸香が重なればワイン感覚で楽しめます。食後酒として生チョコレートやチーズケーキに合わせると、デザートワインさながらのペアリングが成立するでしょう。
刺身や寿司のように素材の甘味や塩味が控えめな料理には、プラス三前後のキレのある酒が合います。
魚の脂肪分を洗い流し、余韻をリセットしてくれるからです。
逆に塩辛や干物といった塩味の強い肴には、マイナス二前後の旨口タイプが優秀です。
甘味と旨味が塩気を包み込み、角を取ったまま味を長く伸ばしてくれます。
肉のステーキや唐揚げのように脂の多い料理の場合、超辛口に振って酸度も一・六以上ある酒を選ぶと、脂を切りつつ後味に軽快な苦みとスパイス感を残してくれます。
私が飲み比べに使ったのは、鹿島を代表する三銘柄です。
光武酒造の純米吟醸は日本酒度-2、酸度1.9。
香りは控えめながら、ほのかな甘味とともにすっと切れるバランスタイプです。
幸姫酒造の純米酒は日本酒度±0、酸度1.70。
優しい香りに、シャープな味わい。煮物や甘辛いタレ料理と好相性でした。
一方、鍋島の特別純米酒は日本酒度+5、酸度1.6。
上品な香りと透明感を感じさせる切れ味抜群な味わい。
こうして真逆の数値帯を横並びで試すと、自分が甘味をどう感じ、酸味をどの程度心地よいと感じるかが一瞬でわかります。
食卓に並ぶ料理との相性も数字で説明できるようになり、メニュー選びが格段に楽しくなりました。
「日本酒度プラス五なのに甘く感じる」という相談をときどき受けます。
この場合、酸度が一・一前後と低めである可能性が高いほか、飲んでいる温度が低すぎて甘味だけが先に立つことも珍しくありません。
逆に“甘口”をうたう銘柄が意外に辛く感じるときは、酸度が一・八近くまで高いか、温度が上がってアルコールの刺激が舌を覆っているケースがよくあります。
温度を五度ほど上下させるだけで印象ががらりと変わるので、ぜひ試してみてください。
日本酒度と酸度は、目的地までの地図のようなものです。
ただし地図を眺めるだけでは旅は始まりません。まずは基準となる日本酒度ゼロ付近の酒と、甘・辛どちらか極端に振れた酒を二本用意して、一口ずつ交互に飲んでみてください。
甘い、辛い、キレる、残る――感覚がまるで違うことに驚くはずです。
鹿島の酒屋や居酒屋で迷ったら、店員さんに数値を尋ねるのが最も確実です。
「プラス四前後で酸度が高めの酒はありますか?」
そう訊ねるだけで、あなたの好みにぐっと近い一本が出てくる確率は一気に上がります。